2010-05-26

今井俊博さんとの再会、そして素材を見直すことの大切さ

 5月25日に配信されたメールマガジン「メコンにまかせ」(vol.218)で、森本さんは、日本滞在中に訪れた布の展示会でのことを次のように記しています。少々長いですが、再掲します。

 わずか数日の日本での滞在だったが、ちょうど千駄ヶ谷で開催されていた「うちくい展」という催しを見に行くことができた。会場は、新宿御苑のすぐ隣、というか新宿御苑の森を借景にした「ラミュゼdeケヤキ」という名前の素敵なお家。この「うちくい展」、おもに沖縄で手作りの布に取り組まれている方々の作品展。風合いのある、素敵な布たちに出会えた気がする。
 そして、そんな布を見て、少しほっとした。というのは、昨年の11月、沖縄の南風原文化センターの「アジア・沖縄 織りの手技」展に招かれたとき、琉球絣の産地で出会った布たちの表情には、少し元気がなかった。なぜかといえば、素材の糸がもつ無表情な印象が気になったのだ。それは多分、中国あたりで機械引きされた無機質な生糸のせいなのだと思う。絣の仕事や織りそのものには手がかけられているだけに、それはとても残念な出来事。沖縄の織り手たちが、その素材としての生糸をもう一度見直す時期に来ているのだと、改めて感じた。でなければ、せっかくの手仕事が浮かばれない。
 素材、それはそのまま風土という言葉に置き換えられる。風と土、それは自然環境そのものである。その土地の生態系を生かした産物、それが素材といえる。しかし、現代の効率化と大量生産の時代のなかで、素材はマーケットから買うのが当たり前になってしまった。でもそれは、誰がどんな風に作っているのかが見えてこない、固有の風土とは無縁なもの。アンデスの山の中で、昔ながらの腰機(こしばた)で織られている布も、その糸はマーケットから買った化学染料で染められた化繊の糸になってしまっている時代である。それは、安全性も含めて、作り手が見えなくなってしまった輸入食料品の世界にも似ている。結果として、それが生み出されている風土とは無縁なものづくりが、当たり前になってしまった。
 「うちくい展」の布を見て、触って、そんなことを考えていたとき、会場に今井俊博さんが現れた。偶然のこととはいえ、本当にびっくりした。今井さんは、目白で「ゆうど」という自然素材にこだわった布などを扱うお店を主宰されている。じつは、わたしが彼から素材の大切さに眼を向けるきっかけをいただいたのは、14年ほど前に、今井さんとお会いしてお話をお聞きしたときだったように思う。もう80歳を超えられているのではないだろうか、でも杖をつきながら、でもお元気な姿を、久しぶりに拝見した。今井さん、展示されている布の前に腰を下ろして一言、「沖縄でも、本当に素材からこだわっている作家が少なくなったんだよね」。
 その今井さん、70年代のファッショナブルな時代の最先端だった広告業界の中で大きな仕事をされてきた方だと聞いている。そして80年代には、インドネシアで手で布を作る人々との出会いがあったという。96年に国際交流基金主催の『アジアのテキスタイル交流プログラム』を企画され、そのときにお会いしたのが最初だった。ラオスやタイ、インドネシアやインドなどアジア各地の布にかかわる人たちと出会い、互いに刺激を受けながら、東京、京都、沖縄と日本の布にかかわる人たちとも交流することができたプログラム。それは、わたしにとっては、ちょうどIKTTをカンボジアで設立した直後のことでもあった。
 西表島の紅露工房を主宰されている石垣昭子さんと金星さんにお会いしたのもそのときだ。お二人の染め織りの素材との自然なかかわり方から、多くのことを学ばせていただいた。わたしにとって大切な出会いのときだった。西表の谷合の沢に自生する琉球藍の葉を収穫しながら、そのいくつかを次のために植え直してゆく。紅露(くーる)という芋の仲間を山から収穫するときも、収穫するのは半分だけ。残りは、土の中に残してやる。それは、風土を愛し、循環と持続可能な自然と付き合うための、基本の作法とでも言えばよいのだろうか。そうしたことをごく普通のことのようにして布を作られている姿を拝見し、そこから学び得たことは多かった。それは、そのまま現在のIKTTの「伝統の森」という、布と布を作る人々にとって大切な、自然環境を再構築する事業の基本の作法にもなっている。
 同じとき、沖縄の織り手で羽衣のような布を織られている方が、そんな羽衣のような布を織るために大切なものは細くてしなやかな生糸だと話されていた。沖縄には志村明さんという、生糸の研究に力を注がれていた方がおられた。しかし、その志村さんが作られるすばらしい糸があるときは、みんながあまり素材のことを気にしていなかった。が、志村さんが沖縄を離れて、そんなすばらしい糸が手に入らなくなり、はじめて志村さんの仕事の意味とその重要さに、みんなの思いが至ったのではないだろうか。石垣島で養蚕が行われているのに、石垣の織り手はその生糸が欲しいと思っても、沖縄には製糸工場がないため、石垣の繭は宮崎の製糸工場に送られ、京都の生糸問屋さんから買わなくてはならない。
 志村さんは、座繰りの生糸が持っている風合いの素晴らしさを、改めて問われている。
 最近、日本の若い織り手の方たちの中で、自分で綿花を栽培して糸を紡ぐ、蚕を飼い始めたという風のたよりを耳にすることが多くなった。それは、素材をもう一度見直すところからものづくりを考える、そんな時期に来ていることを語っている。本来、いい土があるところで焼き物が起こり、いい水のあるところで染色が行われてきた。その基本に帰ること。
 あらためて、伝統は守るものではない、私たち自身の手で作り出していくものが伝統なのである。そのために、素材から見直す。あえて言えば、それを生み出してきた自然環境、風土についてもう一度見直す時期が来ているのではないだろうか。
 IKTTは15年前、戦争の中で失われた伝統を再生するために、カンボジアで自然の再生に取り組み始めた。効率化のなかで失われた伝統と自然と結びついた伝統の再構築が、いまの日本でも必要な時代がやってきているのではないだろうか。それはそのまま、自然の再構築の必要性を意味する。
 日本でも、15年前にわたしがカンボジアで手の記憶をもったオバアたちを探したように、伝統の知恵をもつ人びとと出会う作業が必要なのかもしれない。久しぶりに今井さんと出会えたことで、そんなことを思いめぐらしながら日本を後にした。

【以上、メールマガジン「メコンにまかせ」掲載記事から抜粋、一部加筆修正】
※記事中にある、96年に開催された『アジアのテキスタイル交流プログラム』については、今井俊博氏によるレポートが、国際交流基金の刊行物「アジアセンターニュース(No.2)」に掲載されています。(「アジアセンターニュース」のバックナンバーは、国際交流基金のサイトにPDFデータがありますので、そちらをご覧ください)。また、石垣昭子さんの紅露工房については、Webマガジン「ナチュラルクエスト」での紹介記事もありますので、そちらもご覧ください。
※挿画は、喜多川歌麿「女織蚕手業草 九(繰糸)」です。
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2010-05-21

茨城キリスト教大学・内藤順司写真展「甦るカンボジア」のご案内

 6月1日(火)より6月30日(水)まで、茨城キリスト教大学図書館において、フォトグラファー内藤順司氏による写真展「甦るカンボジア:伝統織物の復興が“暮らし”と“森”の再生に至るまで」が開催されます。
 この写真展は、2月に東京広尾のJICA地球ひろばで開催された内藤順司写真展「甦るカンボジア」の大学巡回展という位置づけとなり、5月2日の帝塚山大学に続く、第2弾となります。
 今回の写真展は、茨城キリスト教大学文学部文化交流学科と、同大図書館、ならびに同大言語文化研究所のご協力のもと、実現の運びとなりました。さまざまなご調整にご尽力いいただいた藤田悟先生、そして関係者のみなさま、ほんとうにありがとうございました。

と き:6月1日(火)~6月30日(水)
    月曜~金曜 9:00~17:00/土曜 9:00~11:45
ところ:茨城キリスト教大学 図書館 1F開架閲覧室内
アクセス:JR常磐線、大甕(おおみか)駅隣接
※JR上野駅から約90分(特急利用)

5月31日、茨城キリスト教大学文学部文化交流学科オープンクラスのご案内

 茨城キリスト教大学図書館において開催されるフォトグラファー内藤順司氏の写真展「甦るカンボジア:伝統織物の復興が“暮らし”と“森”の再生に至るまで」に先立ち、同大文学部文化交流学科(文化交流論)のオープンクラスとして、内藤順司氏のレクチャー「私はなぜ、海外で活動する日本人を撮るのか?」が開講されます。
 スピッツや浜田省吾をはじめとする、数多くの日本人ミュージシャンのオフィシャル・フォトグラファーを務めている内藤氏が、カンボジアでIKTTを設立した森本さんやスーダンで医療活動を続ける川原尚行医師を撮ろうと思い立ったのはなぜなのか、ファインダー越しのカンボジアやスーダンは、どんな見え方をするのか、興味深いお話がうかがえると思います。
 なお、この日のレクチャーは一般の方にも開放されたオープンクラスとのことです。

と き:5月31日(月)14:20~15:30
ところ:茨城キリスト教大学  1号館 1308教室
ゲストスピーカー:フォトグラファー 内藤順司
タイトル:「私はなぜ、海外で活動する日本人を撮るのか?」

2010-05-20

第1回アセアン検定、「タイ検定(3級)」が実施されます

 英検、仏検、漢検・・・、いろいろな検定がありますが、「アセアン検定」なるものが始まります。その第1回として「タイ検定(3級)」が8月29日に実施されます。タイ語検定ではなくタイ検定。つまり、タイに関するさまざまな知識と理解が問われるようです(ちなみに、問題は日本語で出されます)。
 アセアン検定ということは、そのうち、カンボジア検定も実施されるということなのでしょう。ちなみに、アセアンとはAssociation of South East Asian Nations(東南アジア諸国連合)の略で、現在の加盟国は、ブルネイ・カンボジア・インドネシア・ラオス・マレーシア・ミャンマー・フィリピン・シンガポール・タイ・ベトナムの10か国です。

2010-05-19

日本エコプランニングサービス「カンボジアIKTT “伝統の森” 蚕まつりツアー」のご紹介

 毎年「IKTT “伝統の森” 蚕まつりツアー」を企画されている(株)日本エコプランニングサービス(JEPS)による、今年の「蚕まつり2010」参加ツアーの募集が始まっています。
 ファッションショーをメインイベントとした前夜祭、「伝統の森」での宿泊、翌朝の蚕供養への参加などが組み込まれたスタディツアーです。詳細については、以下のサイトでご確認ください。

▼日本エコプランニングサービス「カンボジアIKTT「伝統の森」蚕まつりツアー

2010-05-18

森本さん雑談会、終了しました

 16日に行なわれた内藤順司氏とのトークショーに引き続き、翌17日にも同じく高円寺の庚申文化会館で行なわれた、森本さんの(なりゆきまかせの)雑談会&IKTTのクメールシルク販売会も無事終了しました。
 前日に、スカーフとハンカチをお求めになった方が「友人にも」と、再度ハンカチをお求めにご来場いただいたりしつつ、こじんまりとした雰囲気のなか、それぞれの参加者の方から森本さんへの質問などを交えながら、いつもとは展開が違うなかで話が進みました。
 終了後、森本さんは「昨日と今日、いろいろな話をしたなかで、前回2月に日本に来たときからなんとなく気になっていたことが、だんだんかたちになってきた気がする。もう少ししたらうまくまとまるかもしれない」と感想を述べていました。そんなことも、近いうちにメルマガ「メコンにまかせ」の巻頭言に載るかもしれません。
 今回、高円寺での2日間でのイベントに関しては、これまでに何度もイベント開催でお世話になっている「茶房 高円寺書林」さんのご協力により、わずか一週間という期間のなかで、なんとかイベント開催に至ることができました。いつもおいしいコーヒーと、辛口ジンジャエールとともに感謝です。ありがとうございました。

森本喜久男&内藤順司トークショー、終了しました

 16日に、高円寺の庚申文化会館で開催された、フォトグラファー内藤順司氏と森本さんのトークショーは、盛会のうちに終了しました。わずか一週間前の告知にもかかわらず、会場に足を運ばれたみなさま、本当にありがとうございました。
 一枚一枚の写真を見ながら、内藤氏が語り、それを受けて森本さんがさらに語る。あるいは、内藤氏から、素朴かつストレートな質問が森本さんに投げかけられる・・・。
 恒例ともいえる森本さんの報告会とは異なる展開のなかで、新たな視点からのIKTTの活動の説明や「伝統の森」の展開などを聞くことができ、たいへん有意義な時間であったように思います。
(写真提供=石川武志)

2010-05-17

杏の「クメール織の『伝統の森』」訪問記のご紹介

 3月28日にBS日テレで放送された番組「世界で勝負!グレートジャパニーズ」のナレーションを務めた女優の杏さんが、その直後、5月4日にJ-WAVEで放送された番組「BLUE PLANET」の取材のためにシエムリアップを訪れ、森本さんへのインタビューを担当されました。
 そのときの「伝統の森」や森本さんに会ったときの印象などが、筑摩書房のウェブサイト(Webちくま)の「杏のふむふむ」の連載第10回 【クメール織の「伝統の森」】 に掲載されています。

2010-05-11

5月17日、IKTTシルクの展示販売と森本雑談会のご案内

 森本さんの突然の帰国にあわせ、前日(16日)の森本喜久男&内藤順司トークショーに引き続き、同じく高円寺の庚申文化会館で、IKTTのシルクなどの展示販売と、(本人いわく)なりゆきまかせの森本さん雑談会を行います。

 と き:5月17日(月)
     18時~20時30分
 ところ:庚申文化会館(高円寺)
     杉並区高円寺北3-34-1
     (茶房高円寺書林のすぐ隣です)
     電話:03-5356-9081
 アクセス:JR高円寺駅北口の高円寺純情商店街を直進。突きあたりを左折し、すぐに右折。左手に高円寺文庫センターを見てDVDドラマのすぐ先。

5月16日、森本喜久男&内藤順司トークショーのご案内

 突然ではありますが、森本さんの帰国にあわせ、フォトグラファー内藤順司氏とのトークショーが、以下のとおり開催されます。みなさま、ぜひともお越しください。
 会場では、IKTTのシルクの展示販売も行ないます。

 と き:5月16日(日)
     18時30分~20時30分
 ところ:庚申文化会館(高円寺)
     杉並区高円寺北3-34-1
     (茶房高円寺書林のすぐ隣です)
     電話:03-5356-9081
 アクセス:JR高円寺駅北口の高円寺純情商店街を直進。突きあたりを左折し、すぐに右折。左手に高円寺文庫センターを見てDVDドラマのすぐ先。

2010-05-06

帝塚山大学「あかね祭」での写真展「甦るカンボジア」・ギャラリートーク終了しました


(左:パネル設営には帝塚山大学の学生さんのご協力もいただきました、右:写真を前に説明する内藤さん)

 5月2日に、帝塚山大学「あかね祭」で開催された内藤順司写真展「甦るカンボジア:伝統織物の復興が、“暮らし”と“森”の再生に至るまで」、ならびに内藤さんによるギャラリートークは、盛況のうちに終了しました。関係者のみなさま、そしてご来場いただいたみなさま、ありがとうございました。
 今回、写真展開催にあたってご尽力いただいた帝塚山大学現代生活学部居住空間デザイン学科の植村和代先生は、90年代後半から、カンボジアの織物文化に関するフィールドワークをなさった方でもあります。会場では、植村先生が持参されたカンボジアで入手したアンティークの絣布と、ごく初期の頃のIKTTで制作された絣布も展示されたとのこと。その2つの布を触ってみて、内藤さんは、「森本さんが、IKTTのつくる布をかつてあったすばらしい絹絣と同じレベルにまで持って行きたい、と言っている意味がよくわかった」と言っていました。
 当日の様子については、内藤順司の関心空間も、併せてご覧ください。

2010-05-02

「蚕まつり2010」のご案内

 お待たせしました。 今年の「蚕まつり2010」の開催日程について、森本さんからのアナウンスがありました。

 今年の「蚕まつり2010」の、ファッションショーを含む前夜祭は、9月11日(土)の開催です。翌12日(日)の早朝に、蚕供養を行ないます。
 今回は、いくつかの都合が重なり、満月の日ではなく、日程を少し繰り上げての開催となりました。
 すでに、いくつかの日本からの「蚕まつり」参加ツアーの打診をいただいております。ありがとうございます。また、海外からの開催問い合わせも入り始めました。
 今回は、日本から若手の雅楽楽団の参加も予定されております。できれば、アプサラダンスの踊り子たちとのジョイントを・・・・と考えてみたりと、前夜祭のさらなるバージョンアップに向けて、あれこれ構想を練っているところです。お楽しみに。

【以上、メールマガジン「メコンにまかせ」掲載記事から抜粋、一部加筆修正】
※写真は昨年の「蚕まつり2009」のときのものです。
 「蚕まつり2009」については、このIKTT Japan Newsの2009年9月のところにある「蚕まつり2009」レポート(その1)前夜祭編から、(その6)の記念撮影編までをご覧ください。